」、第4水準2−12−11]りたいような気持を起させるのでした。
こうして、彼女はわたくしの愛人になったのであります。いや、それ以上のものでありました。わたくしの生命そのものだったのであります。彼女を措《お》いて、わたくしにはもうこの世に何一つ期待するものはありませんでした。わたくしは何ものも、何ものも望まなかったのであります。わたくしにはもう、欲しいものは何ひとつ無かったのであります。
ところが、ある夕ぐれのことでした。私たちは連れ立って、河に沿うてすこし遠くまで散歩をいたしました。折あしく俄か雨にあいまして、彼女は風邪をひいてしまったのです。
翌日、肺炎を起しまして、それから一週間後には、彼女はもうこの世の人ではなくなってしまったのです。
断末魔の苦しみがつづいている間は、驚きと恐怖のあまり、わたくしにはもう何がなにやら解らなくなり、落ついて物を考えることなどは出来なかったのであります。彼女が死んでしまうと、劇《はげ》しい絶望のために、わたくしは茫然としてしまって、もう考えも何もなくなってしまいました。わたくしはただ泣くばかりでした。野辺の送りのさまざまな行事がとり行われて
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