て会ったという気がせず、この女をもう久しい以前から知っている、それまでにどこかで会ったことがある、――こう思われてならないのでした。彼女はその身うちに何かしらわたくしの精神と一脈相通じるものを有っていたのであります。
 彼女は、わたくしの魂が放った「おう」と呼ぶ声に「おう」と応える声のように、わたくしの前に現れたのでした。人間がその一生を通じて希望というものに向けて放っている、あの漠とした不断の叫び、その声に「おう」と応える声のように、彼女はわたくしの前にその姿を現わしたのでした。
 そしてこの女を更によく知りますと、彼女に会いたい、会いたいという思いだけが、一種名状しがたい、深い、云い知れぬ興奮で、わたくしの心を揺《ゆす》ぶるのでした。自分の掌《たなごころ》のなかに彼女の手を把《にぎ》り緊《し》めていると、わたくしのこの胸には、それまで想像だもしなかったほどの愉しい気持ちが漲《みなぎ》って来るのでした。彼女の微笑はまた、わたくしの眼のなかに狂的な悦びを注ぎ込み、わたくしに、雀躍《こおど》りをしたいような、そこらじゅうを無茶苦茶に馳けてみたいような、大地の上をごろごろ転げ※[#「廴+囘
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