。一口に愛していたと申しましても、わたくしは、肉体的な愛慾とか、あるいはまた尋常一と通りの精神的な愛情、そのような通り一遍の気持で愛していたのではございません。わたくしは、何ものをもってしても代えることの出来ない、溢れるばかりの情熱をもって彼女を愛していたのであります。もの狂おしいまでに熱愛していたのであります。
 わたくしがこれから申し述べますことを、しばらくお聴き取りのほどを願います。
 わたくしは、初対面のおりに、彼女を見ますと、一種異様な感をおぼえたのであります。それは、愕《おどろ》きでもありません、嘆美でもありません。さればと云って、よく世間で云っております、あの、雷にどかーんと撃たれたような気持、――ああしたものでもありませんでした。何と申しましょうか、それは、ちょうど湯加減のよい浴槽《ゆぶね》のなかにでも浸《ひた》っているような、こころよい、しみじみとした幸福感でありました。
 彼女の一挙一動は、わたくしを恍惚とさせました。彼女の声は、わたくしの心を奪うのでした。彼女のからだ全体が、それを見ているわたくしに、限りない悦びを催させるのでした。わたくしにはまた、どうしても初め
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