て検事が着席すると、
「死刑だ!」
「死刑にしろ!」
傍聴人たちは口々にそう叫びだした。裁判長はそれを静めるために並々ならぬ骨を折った。かくて法廷が再び静粛になると、裁判長は厳かな口調でこう訊いた。
「被告には、申し開きになるようなことで、何か云っておきたいことはないかね」
弁護人をつけることを嫌って、何と云っても附けさせなかったクールバタイユは、そこで、やおら立ち上った。背丈のたかい、鳶色《とびいろ》の頭髪《かみのけ》をした好男子で、いかにも実直そうな顔をしており、その顔立ちにはどことなく凛としたところがあって、何かこう思い切ったことをやりそうな眼つきをした男である。
傍聴席にはまたしても嘲罵《ちょうば》の口笛が起った。
けれども、彼は、動ずる色もなく、心もち含み声で語りだした。始めのうちはその声はやや低かったが、喋ってゆくにつれて、それもだんだんしッかりして行った。
「裁判長殿、
陪審員諸氏、
申し述べておきたいようなことは、わたくしにはほとんどございません。ただ、わたくしが墓を発《あば》きました女、あれはわたくしの愛人だったのです。わたくしはその女を愛しておりました
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