あした神秘的な関係をあなたと結んでいるのです。そのひとの眼、愛情がそのなかで微笑《わら》っている、そのひとの凉しい眼は、あなたにとっては宇宙よりも広く感じられ、世界の何ものよりもあなたの心を惹くように思われるのです。つまり、そのひとはあなたを愛しているのです。そのひとがあなたに口をきく。と、その声はあなたに幸福の波を浴びせるのです。
ところで、そのひとが一朝にして消え失せてしまうのです。ああ、考えてもみて下さい。そのひとはただあなたの前から消え去るばかりではなく、永久にこの地上からその姿を消してしまうのです、つまり、死んでしまったのです。一口に死ぬと申しますが、この「死ぬ」という言葉の意味がお分りでしょうか? それはこう云うことなのです。そのひとは、もうどこを探してもいない。決していない。決して、決して、いなくなってしまったと云うことなのです。その眼はもう決して何んにも見ない、その口はもう決して物を云わないのです。数知れぬ人間の口から出る声のなかには同じような声音はあるとしても、そのひとの口は、もうかつてその声が語った言葉をただの一つをも、それと同じように語ることは決してないのです。
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