の髄まで冷たくなってしまうような気がした。良人は夕餉《ゆうげ》の時刻にならなければ帰って来なかった。絶えず猟に出かけていたからである。猟に行かなければ行かないで、種蒔きやら耕作やら、耕地のさまざまな仕事に追われていた。そして、良人は毎日、嬉しそうな顔をして、泥まみれになって屋敷へ帰って来ると、両手をごしごし擦りながら、こう云うのだった。
「いやな天気だなぁ!」
 そうかと思うと、また、
「いいなあ。火ッてものは実にいいよ」
 時にはまた、こんなことを訊くこともあった。
「何か変ったことでもあったかね? どうだい、ご機嫌は?」
 良人は幸福で、頑健で、ねッから欲のない男だった。こうして簡易な、健全な、穏やかなその日その日を送っていれば、もうそれでよく、それ以外には望みというものを持っていない。
 十二月のこえ[#「こえ」に傍点]を聞く頃になると、雪が降って来た。その頃になると、彼女は凍ったように冷たい屋敷の空気がいよいよ辛くなって来た。人間は齢を重ねるにつれてその肉体から温かみが失せてゆくものだが、それと同じように、この古色蒼然たる屋敷も、幾世紀かの年月を閲《けみ》するうちに、いつしか、
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