つめたく冷え切ってしまったように思われるのだった。彼女はとうとう堪りかねて、ある晩、良人に頼んでみた。
「ねえ、あなた。ここの家はどうしても煖房を据え付けなくッちゃいけませんわね。そうすれば壁も乾くでしょうし、ほんとうに、あたし、朝から晩まで、一時《いっとき》だって体があったまったことがありゃアしないんですのよ」
良人は、自分の邸《やしき》に煖房を据えつけようなどと云う突飛な妻の言葉を聞くと、しばらくは唖然としていたが、やがて、胸も張り裂けよとばかり、からからと笑いだした。銀の器に食い物をいれて飼犬に食わせるほうが、彼には遥かに自然なことのように思われたのであろう。良人はさも可笑しそうに笑いながら云った。
「ここのうちへ煖房だって! うわッはッは! ここのうちへ煖房だなんて、お前、そいつあ飛んだ茶番だよ! うわッはッは!」
しかし彼女も負けていなかった。
「いいえ、ほんとうです。これじゃ、あたし凍っちまいますわ。あなたは始終《しょっちゅう》出あるいてらっしゃるから、お解りにならないでしょうけど、このままじゃ、あたしの体は凍っちまいますわ」
良人は相かわらず笑いながら、答えて云った
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