。
「馬鹿なことを云っちゃアいけないよ。じきに慣れるよ。それに、このほうが体のためにゃずッと好いんだからね。お前だって、もっと丈夫になれるのさ。こんな片田舎のことだ、巴里ッ児の真似は出来るもんでもない、私たちは燠《おき》でまア辛抱しなけれアなるまいよ。それにもう、そう云ってるうちにじき春だからね」
* *
* *
* *
年が明けて、まだ幾日もたたない頃のことだった。彼女は大きな不幸に見舞われた。乗物の事故のために、両親が不慮の死を遂げたのである。葬儀に列席しなければならなかったので、彼女は巴里へ帰った。それから半歳ばかりと云うものは、死んだ父母《ちちはは》のことが忘れられず、ただ悲しみのうちに日がたった。
そうこうするうちに、うらうらと晴れた温かい日が廻って来た。彼女は生き返ったような気がした。こうして、彼女は、秋が来るまで、その日その日を悲しく懶《ものう》く送っていた。
再び寒さが訪れる頃になって、彼女は初めて自分の暗い行末をじいッと視《み》つめるのだった。こののち自分は何をしてゆけばいいのだろう
前へ
次へ
全24ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
モーパッサン ギ・ド の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング