? そんなことは何ひとつ無いのである。こののち自分の身にはどんなことが起きるのであろう? 起きて来そうなことは無い。自分の心を元気づけてくれるような期待とか希望、そんなものが何か自分にもあるだろうか? そんなものは一つとして無かった。彼女が診《み》てもらった医者は、子供は一生出来まいと云った。
前の年よりも一しお厳しい、一しお身に浸《し》みる寒さが、絶えず彼女を悩ました。彼女は寒さに顫《ふる》える手を燃えさかる焔にかざした。燃えあがっている火は顔を焦すほど熱かったが、氷のような風が、背中へはいって来て、それが膚《はだ》と着物との間を分け入ってゆくような気がした。彼女のからだは、脳天から足の先まで、ぶるぶる顫えていた。透間風がそこらじゅうから吹き込んで来て、部屋という部屋のなかはそれで一ぱいになっているようである。敵のように陰険で、しつッこく、烈しい力をもった透間風である。彼女はどこへ行っても、それに出ッくわした。その透間風が、ある時は顔に、ある時は手に、ある時は頸に、その不実な、冷かな憎悪を絶えず吹きつけるのだった。
彼女はまたしても煖房のことを口にするようになった。けれども、良人
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