どうと落ちる雨の音ばかり。眼に見えるものと云っては、渦を巻いて飛んでいる鴉《からす》の群だけである。その鴉の群は、雲のように拡がると見る間《ま》に、さっと畑のうえに舞い降り、やがてまた、どことも知れず飛び去ってゆくのだった。
屋敷の左手に大きな山毛欅《ぶな》の木が幾株かある。四時頃になると、もの淋しい鴉の群はそこへ来て棲《とま》り、かしましく啼きたてる。こうして、かれこれ一時間あまりの間、その鴉の群は梢から梢へ飛び移り、まるで喧嘩でもしているように啼き叫びながら、灰色をした枝と枝との間に、黒い動きを見せていた。
来る日も来る日も、彼女は日の暮れがたになると、その鴉の群を眺めた。そして荒寥《こうりょう》たる土地のうえに落ちて来る暗澹たる夜の淋しさをひしひしと感じて、胸を緊《し》められるような思いがするのだった。
やがて彼女は呼鈴を鳴らして、召使にランプを持って来させる。それから煖炉《だんろ》のそばへ行く。山のように焚木《たきぎ》を燃やしても、湿り切った大きな部屋は、ねっから暖くならなかった。彼女は一日じゅう、客間にいても、食堂にいても、居間にいても、どこにいても寒さに悩まされた。骨
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