は、使おうなどとは思ってもみなかったような、さまざまな愛称をその犬につけてやったりした。
 良人は彼女に猟のはなしをして聞かせた。それが良人の十八番《おはこ》だった。自分が鷓鴣《しゃこ》に出あった場所を教えたり、ジョゼフ・ルダンテューの猟場に兎が一匹もいなかったことに驚いてみせたりした。そうかと思うと、また、アンリ・ド・パルヴィールともあろう自分が追い立てた獲物を、町人の分際で横あい[#「あい」に傍点]から射とめようという魂胆で、自分の領地の地境のところばかりをうろうろしていた、アーヴルのルシャプリエという男のやり[#「やり」に傍点]口にひどく腹を立てたりした。
「そうですわねえ、まったくですわ。それは好くないことですわ」
 彼女はただそう相槌《あいづち》を打ちながら、心ではまるで別なことを考えていた。
 冬が来た。雨の多い、寒いノルマンディーの冬が来た。空の底がぬけでもしたように、来る日も来る日も、雨が、空に向って刄《やいば》のように立っている、勾配の急な、大きな屋根のスレートのうえに降りつづけた。道という道は泥河のようになってしまい、野はいちめんの泥海と化した。聞えるのは、ただどう
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