濃い、顔色のつやつやとした、肩幅の広い男で、物わかりは余りいいほうではなかったが、根が陽気な質《たち》で、見るからに逞《たくま》しい青年《わかもの》だった。
 この縁談には彼女のあずかり知らぬ財産目あての理由があった。本心が云えるものならば、彼女は「あんな人のところへ行くのは厭だ」と云いたかったのであろう。けれども、両親の意に逆らうのもどうかと思う心から、ただ頸《くび》をたて[#「たて」に傍点]に掉《ふ》って、無言のうちに「行く」という返事をしてしまったのだった。彼女は物ごとを余りくよくよしない、生活というものを愉しもうとする、陽気な巴里《パリ》の女であった。
 良人は彼女をノルマンディーにあるその屋敷へ連れて行った。それは、鬱蒼と茂った老樹にぐるりを囲まれた、石造りの宏壮《こうそう》な建物だった。正面には、見上げるような樅の木叢《こむら》がたちはだかっていて、視界を遮っていたが、右のほうには隙間があって、そこからは遠く農園のあたりまで伸びている、荒れ放題に荒れた野原が見えた。間道が一条、柵のまえを通っていた。そこから三|粁《キロメートル》離れたところを通っている街道に通じる道である。
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