連れて、希望にもえ、愛情に酔い、幸福にひたった心を抱いて、再びこの地を訪れるであろう。しかるに自分はどうか。名ばかりながら今は生きながえらえている哀れなこの五体は、柏の柩《ひつぎ》の底に、経帳子《きょうかたびら》にしようと自分が選んでおいたあの絹衣《きもの》につつまれた白骨をとどめるのみで、あわれ果敢《はか》なく朽ちはてているであろう。
 彼女はもうこの世の人ではあるまい。世のなかの営みは、自分以外の人たちには、昨日となんの変ることもなく続くであろう。が、彼女にとってはすべてが終ってしまう。永遠に終りを告げてしまうのだ。自分はもうこの世のどこにも居なくなっているであろう。そう思うと、彼女はまたにっこり笑った。そして、蝕まれた肺のなかに、芳ばしい花園のかおりを胸一ぱい吸い込むのだった。
 そうして彼女はその思い出の糸を手繰りながら、じッと物思いに耽るのだった――。
        *     *
     *           *
        *     * 
 忘れもしない、彼女がノルマンディーの貴族と結婚させられたのは、四年前のことである。良人《おっと》というのは、鬚《ひげ》の
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