もたて切ったままになっていた。そして路次には雑草があおあおと生い茂っていた。
年老いた下婢は冬のうちに死んでしまった。もう誰ひとり、あの事件を気にとめる者もなかった。だが、僕にはどうしても忘れられなかった。絶えずそのことばかり考えていた。
兵士たちは一体あの女をどうしたのだろう。森をこえて、あの女は逃げたのだろうか。誰かがどこかであの狂女をつかまえて、彼女の口からどこのどういう人間かと云うことを聴くことも出来ないので、病院に収容したままになっているのではあるまいか。しかし、僕のこうした疑惑をはらしてくれるような材料は何ひとつ無かった。とは云うものの、時がたつにつれて、僕が心のなかで彼女の身のうえを気遣う気持もだんだんと薄らいで行った。
ところが、その年の秋のことである。山※[#「鷸」のへんとつくりが逆、92−7]が群をなして飛んで来た。痛風のほうもどうやら鎮《おさ》まっていたので、僕はぶらぶら森のほうへ鉄砲を射ちに出かけた。そして嘴《くちばし》のながい奴を、既に四五羽は射ち落していた。その時だった。僕は山※[#「鷸」のへんとつくりが逆、92−9]をまた一羽射とめたのだが、そいつが
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