は、一たびどこかの家へ這入《はい》ると、それから後《あと》は、もうその家の入口をすっかり心得てでもいるように、すぐまたその家を襲いたがるものらしい。
年わかい女は、可哀そうに、その悲しみに打ちのめされて、どッと床《とこ》に臥就《ねつ》いてしまい、六週間と云うものは譫言《うわごと》ばかり云いつづけていた。やがて、この烈しい発作がおさまると、こんどは、倦怠とでも云うのだろう、どうやら静かな症状がつづいて、さしもの彼女もあまり動かなくなった。食事もろくろく摂《と》ろうとはせず、ただ眼ばかりギョロギョロ動かしていた。誰かがこの女を起そうとすると、そのたびに、今にも殺されでもするかと思われるように、声をたてて泣き喚くのだった。まったく手がつけられない。で、この女はしょッちゅう寝かしっきりにされていて、身のまわりのこととか、化粧の世話とか、敷蒲団を裏返すような時でもなければ、誰も彼女をその蒲団のなかから引ッぱり出すようなことはしなかった。
年老いた下婢《かひ》がひとり彼女のそばに附いていて、その女が時折り飲物をのませたり、小さな冷肉の片《きれ》を口のところまで持っていって食べさせてやったりして
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