えって誇りとしていたのです。
 その少年はこうした艶ッぽい話や怖しい話を聞くと夢中になってしまいました。そして時折り手をたたいたりして、こんなことを幾度も云うのでした。
「僕にだって出来ますよ。その人たちの誰にも負けずに、僕にだって恋をすることが出来ますよ」
 そうしてその子は私に云い寄りました。ごく内気に、優しく優しく云い寄ったのでした。それが余り滑稽だったので、皆な笑ってしまいました。それからと云うもの、私は毎朝その子が摘んだ花を貰いました。また、毎晩、その子は部屋へあがって行く前に私の手に接吻して、こう囁くのでした。
「僕はあなたを愛しています!」
 私が悪かったのです、ほんとうに私が悪かったのです。いまだに私はそれについては始終後悔の涙にくれるのです。私は生涯その罪の贖《つぐな》いをして来ました。こうして老嬢をとおしております。いいえ、老嬢と云うよりも、婚約をしたッきりの寡婦、あの少年の寡婦として通して来たと申したほうが好いのでしょう。私はその少年のあどけない愛情を弄んだのです。それを煽り立てさえいたしました。一人前の男にたいするように、媚を見せたり、水を向けたり、愛撫をしたり
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