漂っておりました。すると、その子は出し抜けに立ちどまって、私の手をにぎり緊《し》めて、こう云うのです。
「あれを御覧なさい。あれを――。でも、従姉《ねえ》さんには僕というものがよく解ってないんですね。僕にはそう思えます。従姉さんに僕が解ったら、僕たちは仕合せになれるんだがなア。解るためには愛することが必要です」
 私は笑って、この子に接吻をしてやりました。この子は死ぬほど私に思い焦がれていたのです。
 また、その子はよく、夕食のあとで、私の母のそばへ行って、その膝のうえに乗って、こんなことを云うのでした。
「ねえ、伯母さま、恋のお話をして下さいな」
 すると私の母は、たわむれに、昔から語り伝えられて来た、一家のさまざまな話、先祖たちの火花を散らすような恋愛事件をのこらず語って聞かせるのでした。なぜかと云いますと、世間ではその話を、それには本当のもあれば根も葉もない嘘のもありましたが、いろいろ話していたからでした。あの一家の者は皆な、そうした評判のために身をほろぼしてしまったのです。彼らは激情にかられて初めはそう云うことをするのでしたが、やがては、自分たちの家の評判を恥かしめないことをか
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