ンテーズが、どんなに驚くべき早熟の子であったか、到底それは御想像もつきますまい。愛情というもののありと凡《あら》ゆる力、その一族の狂熱という狂熱が、すべて、サンテーズ家の最後の人間であったその子の身に伝えられてでもいるようでした。その子はいつ見ても物思いに耽っておりました。そして、館から森へ通じている広い楡《にれ》の並木路を、たッたひとりでいつまでもいつまでも、往ったり来たりして歩いているのです。私はよく部屋の窓から、この感傷的な少年が、両手を腰のうしろに※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]して、首をうなだれて、淋しそうな足どりで歩いている姿を見かけました。少年は時折り立ちどまって眼をあげるのでしたが、何かこう、その年頃には相応しくないものを見たり、考えたり、感じたりしているようでした。
 月のあかるい晩などには、夕食がすむと、彼はよく私に向ってこう云いました。
「従姉《ねえ》さん、夢をみに行きましょうよ――」
 私たちは庭へ出ました。林のなかの空地の前まで来ると、あたりには白い靄《もや》がいちめんに立っておりました。林の隙間を月が塞ごうとするかのように、綿のような靄がいちめんに
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