ら、伯母にこう訊いた。
「ねえ伯母さま。何でございますの、この指環は――。子供の髪の毛のようでございますわね」
老嬢は面をあかく染めた。と思うとその顔はさッと蒼ざめた。それから顫《ふる》えを帯びた声で云うのだった。
「これはねエ、とてもお話しする気になどなれないほど、悲しい、悲しいことなんですの。私の一生の不幸もみんなこれがもと[#「もと」に傍点]なんです。私がまだごく若かった頃のことで、そのことを想うと、いまだに胸が一ぱいになって、考えるたびに私は泣きだしてしまうのです」
居合わせた人たちはすぐにもその話を聴きたがった。けれども伯母はその話はしたくないと云った。が、皆《み》なが拝むようにして頼むので、伯母もとうとう話す決心をしたのだった――。
「私がサンテーズ家のことをお話しするのを、もう何遍となくお聞きになったことがあるでしょう。あの家も今は絶えてしまいました。私はその一家の最後の三人の男を知っておりました。三人が三人、同じような死に方をいたしました。この頭髪《かみのけ》は、そのなかの最後の男のものなのです。その男は、十三の年に、私のことがもと[#「もと」に傍点]で、自ら命を
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