に解るような悲惨な最後の理由を述べ尽しているのである。以下その手記である、――

 夜も更けた、もう真夜中である。私はこの手記を書いてしまうと自殺をするのだ。なぜだ? 私はその理由を書いてみようと思う。だが、私はこの幾行かの手記を読む人々のために書いているのではない、ともすれば弱くなりがちな自分の勇気をかき[#「かき」に傍点]立て、今となっては、遅かれ早かれ決行しなければならないこの行為が避け得べくもないことを、我とわが心にとく[#「とく」に傍点]と云って聞かせるために綴《つづ》るのだ。
 私は素朴な両親にそだてられた。彼らは何ごとに依らず物ごとを信じ切っていた。私もやはり両親のように物ごとを信じて疑わなかった。
 永いあいだ私はゆめ[#「ゆめ」に傍点]を見ていたのだ。ゆめ[#「ゆめ」に傍点]が破れてしまったのは、晩年になってからのことに過ぎない。
 私にはこの数年来一つの現象が起きているのだ。かつて私の目には曙のひかり[#「ひかり」に傍点]のように明るい輝きを放っていた人生の出来事が、昨今の私にはすべて色褪せたものに見えるのである。物ごとの意味が私には酷薄な現象のままのすがた[#「す
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