あることを物語っている。あの自動車も必ず彼等の自家用車に違いない――。
氏はその一一一六六六という番号を基調に、間もなく彼女が子爵|脇坂《わきざか》夫人であり、かの老人が家付きの七尾《ななお》医師であることを知った。
氏はなんらゆすりがましい気持を持ったわけではなかった。が、それを知ると、何か説明しがたいものに惹《ひ》かれて、氏は一日麹町の子爵邸を訪れたのである。そして、おお、そのわずかな行動が、氏をこれほどの不運な境遇へ導こうとは!
「ね、考えてみれば初めから企《たくら》んだ仕事なのです、あの煙草の件にしたって」とながい物語を終わった氏がいったのである。「射的屋|云々《うんぬん》も一応の理屈はたつが、事実そんなことが許されるかどうか、また湯銭にしたって日比谷の泥棒にしたって事実あれほどぴったりとゆくものかどうか、そうして何がために老人がそれほど私を助けたのか、ね、皆あの女との交渉を持たそうがために、老人は前から適当な青年を物色していたに違いないんです。履歴書を見たり、一日中、かまえてその青年をためしていれば、それが人間としてどれだけ欠点のない男かどうかはわかるはずではありません
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