示された三越と駅のあの線から、ポストの煙草屋、それから一軒二軒三軒といわれたところの、疑問の町を訪ねたのである。
煙草屋の路地を入ったあたりは、まだそこここの家裏と変わった感じでもなかったが、それが一歩、四軒目の家の角を曲がると、東京の、しかも繁華なこの一角に、こんな奇妙な路地があったかと驚くばかり、その路地はゆれゆれと折れ曲がって、しかも左右のどの家もが、皆黒い板塀にかこまれて、その路地へ対しては、一軒として便所の口さえも開いてはいないのである。まことに世をすねた好事家《こうずか》が、ひそかに暇潰《ひまつぶ》しにこしらえたとも呼びたい、それはなんの意義をも持たぬかに見える全くの袋小路であった。
行くことわずかにして、いわれた通りの板塀に突き当たった。氏は押してみた。そして驚くべきことには、そこにまた、かの老人のいった如くに、そこにはいとも物静かな、格子のあるしもた屋の一番地が、ひっそりと氏の前にひらけたのである。氏は思い切って静かに口笛を吹いた。そのやわらかな音律《リズム》は、人ひとりいるとも見えぬその家々の軒を、格子を、ノックするように流れていった。
私はここで、それから氏
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