もない板塀の門から、堂々と中に入って行った。まだほの暗いその門へは、法被姿や巻脚絆《まききゃはん》や、いずれは労働者と見える連中が、同様に一人ふたり連れ立ってやって来ていた。そして寺内氏も、老人と共に人々に交って、なんの心配もなく、広い新木造りの食堂で、腹いっぱいに、温かい食事をすることができたのである。
「これも都会のぬけ裏[#「ぬけ裏」に傍点]なのかな?」
寺内氏はそう思いながら幾杯もお代わりをした。
門から出る時には少し手段がいった。それはこの食堂が、ある組合の経営のもので、そこで食事を許される労働者は、しばらく塀のうちで待ったのちに、監督につれられて、その日の賃銀を働くべく、作業場へ行くようになっているからである。
が、三十人に近いそれ等の労働者のうちには、ちょいと煙草を買うために門を出て行く者がないではない。寺内氏と老人とは、きわめて自然にそんな労働者を装って、苦もなく再び、自由な町へと門を出たのだった。
「どうだい、罪だと思うかね、俺がこんな風に生活していることを?」
その門から数町離れたところで、やはり歩きながら老人がいった。そして今は幾分老人に安心した寺内氏が、
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