で、これで身代を潰《つぶ》しちゃった人間だよ」とか、
「この人にうたしたら、射的屋が幾軒あったって一軒だって立っちゃゆかねえ」
とか、そんな風に陰の後援を自然にやってくれて、それが第十軒目では、
「まあ親方ですか、今日はあいにく混んでおりますから、おそまつですけれどこれで勘弁なすって――」
と何もいわぬ先から『朝日』一個を渡されたというのである。以来老人は煙草が欲しくなれば、頃をはかってその十二軒の――どれかの射的屋へ顔を出して、「うたすかね!」と朝日なりバットなりをもらって来るのだというのである。
また湯銭にしても、それが十銭や十五銭のことなら、どこにでも盛り場というものにはそんな金が落ちてる穴があるそうである。拾得物《しゅうとくぶつ》がどうのこうのとやかましくいえば限りがないが、放っておけば腐ってゆく金を、ただ拾い出して来るのになんの咎《とが》があろう、使われてこそ金自身としては本望ではあるまいか――とそんな話のうちに、二人は目的のところへ来てしまった。
「いいか、真っ直ぐに歩いて、黙って、金を払って食うつもりで食うんだぜ」
老人は一言注意して、寺内氏の先に立って、標札も何
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