会のぬけ裏[#「ぬけ裏」に傍点]のことを話してくれた。
 たとえば昨夜の煙草である。あれは老人が付近の射的屋へ行って、ただその顔をのぞけただけでもらって来たものだというのである。
 老人はかつてその十二軒だか並んでいる射的屋の一軒一軒を、頃をはかって、
「よう今晩は」と入って行った。そして、「どうだい姐さん、俺にいくらでもうたすかね?」
 と台に半身を泳がしていったのである。
 第一の射的屋では、
「さあどうぞ」
 とあっさり弾をつきつけられてしまった。すると射的なんか全然できない老人は、
「はっはっは、姐さんはまだ若いね、そうムキになられるとこっちがうてなくなる。気の毒だからまあこのつぎにしよう」
 とそのままつぎへ廻ったのであるが、見も知らぬ老人の腕前を、どこにうたさぬ先から見ぬく射的屋があろう、老人はそこでも弾をつきつけられた。が、同じ言葉をくり返して、老人はたゆまずその十二軒を廻ったという。
 ところが面白いことには、その七、八軒目から、もう老人の後には、用のない弥次馬《やじうま》がうんと従《つ》いて来て、それらが老人が射的屋へ入るたびに、コソコソと、
「あれやお前、××の年寄
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