もじり」に傍点]の者、法被《はっぴ》のもの、はなはだしいのは南京米の袋をかぶったもの、いずれも表通りでは見られないような男達が、およそ四十人近くも、いっぱいに詰まって、いぎたなくそこにごろ寝をしているのだった。
「静かにするんだ。そしてほら、あの間へ寝転ぶといい。腹が空いているだろうが、また明日のことだ。寒けりゃこれをかぶって寝てもいいぞ」
 老人がそれまで己れの身につけていた毛布を貸してくれた。氏にはこの建物が、A区の無料宿泊所であるとは翌日の朝までわからなかったそうである。老人のいった別荘の意味は、単なる隠語であったとは知ったが、毛布をかぶってごろ寝しながらも、氏はいよいよ不可解になってきた老人の正体を考えずにはいられなかった。
 おそらくこの老人とても、こうして雑魚寝《ざこね》の連中と同一|軌《き》の人種に違いない、とそのことは考えられたが、なお氏の頭には、老人の態度その他の、変に紳士的なところが理解できかねたのである。
「よし、明日になったら聞いてみよう。そして老人の正体によって、これが受くべきでない恵みならば、いさぎよく受けないことにしよう」
 多少の余裕を回復した寺内氏は、
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