って、あたしに、速達にして出してくれと仰有《おっしゃ》ったのでよく覚えていますわ。上書は、たしかにあなたの名前でしたもの」
星田はふいにわけの分らぬ混乱におち入った。しばらく彼はそわそわとあたりを見廻しながら、落着きなくポケットの中を探っていたがやっと、くしゃくしゃになった一通の封筒を取出した。
「その手紙というの、これじゃなかった?」
「あっ! それよ。まあ、後生大事に、肌身離さずというわけなのね。先生、おごって頂戴よ」
「いや、そんなことはどうでもいいが、君、間違いないだろうね。たしかにこの手紙だったろうね」
「ええ、間違いありませんわ。あたし、京子さんて方、割に字が拙《つたな》いのねと思ってみていると、あの女《ひと》がわざと手蹟《て》を変えたのよと言ってお笑いになったから、よく覚えて居りますわ」
「いや、有難う。じゃ、また後程ゆっくり来るよ」
カフェーを飛び出した星田代二の頭は、まるで渦のように泡立ち乱れていた。
それじゃ、あの挑戦状を寄越したのは京子だったのか、かつて、自分を裏切り、最近三映キネマの首脳女優として素晴らしい喝采を博していた宮部京子。――とすれば、現在今日、
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