すわ」
「それで、その男は何者だね?」
星田代二は思わず急き込んでそう訊ねた。
「あら」と、女給は笑いながら、「その方、男じゃありませんわ。女の方よ、ほら、あなたも御存じでしょう? 三映キネマのスタア、宮部京子よ」
「ナ、何んだって、宮部京子があの晩一緒だって……」
突然、星田は椅子から飛び上りそうになってそう叫んだ。
無理もない、彼はたった今、その京子の死体を見てきたばかりのところなのだ。そして、その殺人犯人としての自分の、のっぴきならぬ窮地から遁れようと思って、わざわざこのカフェーまでやってきたのだが、あの晩、京子がこのカフェーに来ていたとは、一体、これは何を意味するのだろう。
「ほほほほ! 先生の驚きようたら! それじゃ、あの手紙にはよっぽどいい事が書いてあったのね」
「何? あの手紙って何んだね?」
激しい驚きのうちにも、星田は女給の言葉尻を捕えることは忘れなかった。
「あら、あなたお受取りになったのでしょう。京子さんがここからお出しになった手紙よ」
「京子が――? ここから――?」
「ええ、そうよ、あなた方がお帰りになったすぐその後で、京子さんが一通の手紙をお書きにな
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