受持ちの番になった。
「ねえ、君」
と、星田は欲しくもないウイスキーに口をつけながら、思い出したように女給に話しかけた。
「この間の晩、僕がここへ来た時も、やっぱり君の受持ちだったね」
「ええ、よく覚えていらっしゃいますわね。津村さんや、村井さんたちと御一緒だった時でしょう?」
「そうそう、あの晩のことだ。あの時、ほら、向うの卓子にいた二人連ね。いやに眼の鋭い男と、洋装の美人の二人連がいたね。君、あの人たちを覚えてやしない?」
「こうっと」
と女給は首をかしげて、
「ああ、分りましたわ。だけど、あの人たち二人連じゃありませんでしたわ。三人連だったのよ」
「三人連れ? そうかな、こちらからは二人しかみえなかったが」
「そうね。もう一人の方は植木の蔭に坐っていらしたから、こちらからは見えませんわねえ」
「ふうん、成程、じゃ、二人連でも三人連でもいいから、君、その人たちを知っているの」
「ええ、お一人だけはよく存じておりますわ。とても有名な方ですもの」
「ええ、有名って? どの人だね、あの男がかね?」
「いいえ、そうそう、こちらからは見えなかった方、棕梠《しゅろ》の蔭に坐っていらした方で
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