いかにも、そういう狂言を書くにふさわしく見えはしないだろうか。
――星田はそんな風に考えて行くうちに、最早のっぴきならぬ嫌疑が、自分の上に落ちているような、激しい不安を感じずにはいられなかった。
指紋、足跡、眼鏡、そして被害者との過去の関係だ。
しかも、自分が第三者によって操られていたという確かな証拠はどこにもないのだ。
星田は二度、三度、深い絶望的な呻《うめ》き声をあげた。
今にも、眼に見えない敵の、恐ろしい、骨ばった指によって咽喉《のど》をしめつけられそうな気がする。
しかし、それにしても、この敵とは果して何者だろう。
そうだ。先ず第一に自分はそれから先きに探っておく必要がある。それには、――そうだ、あのカフェーのボーイのうちに、誰かあの男或はあの女を見知っている者があるかも知れない。
星田はそう考えると急に勇気が出て来た。今は、べんべんとして、敵の攻撃を待っているべき時ではない。こちらから逆襲して行くべき時だ。
そう決心すると、彼はすぐに家を出て、この間のカフェーへ車を乗りつけた。
幸い、この間自分たちの卓子《テーブル》の番に当っていた女給が、今日も同じように
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