た》いこともあるし――」
そして青年は一寸眼を瞑《つぶ》った。彼は、頼むと云われた言葉に不安を感じた。そしてこれまでの、食事や入浴やが、ひどく不気味に悔いられて来た。俺を何に使う考えだろうか? 利用せられるのではないだろうか?
「実はね」
青年は多少声を落して、
「これは君の自殺を買うための頼みなんだが」と話し始めた。それに依ると、明晩ある所まで使いに云って貰い度い、そして金を受取ったならば、その金は君自身好きなように使い果して呉れればいい。自分の頼みは、その家まで行って貰うことにあるので、それ以外は皆君の自由だ。勿論《もちろん》金を受取ったからって、再び此処《ここ》へ帰らなくともいい、いや帰らない方がいい、と云うのである。
彼は、そのあまりに不合理な依頼に、一時は躊躇《ちゅうちょ》もしたが要するに恩人の頼みだ。受取った金は、再び此処へ持ち帰ればいい。そうすれば自分の責任も済む。と独り考え定めて、その依頼に、快く応ずることにしたのであった。
「で、何と云って行くんですか?」
「うむ、一寸待って呉れ給え」
青年は、眼を瞑って、暫くその言葉を考える様子をした。その秀でた顔面には、そ
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