な場所に来合せ、しかも旧知以上の親切をもって、彼のこの、貧しさ寂しさを慰めて呉れるかを、考うべきではなかったろうか。
 ふたりは、やがてその青年の住居へ来た。

     3

 青年の住居と云うのは、その鉄道線路を背景にした新開町の、樹木の多い高地にあって、新しい二階建の、隅から隅まで手の届いた、一見閑雅な建物であった。
 ふたりが玄関の、スリガラスをはめた格子戸の前に立つと、「お帰りなさいませ」と、上品な婆やの顔が、それを内から開いて迎えた。
 彼は二階の六畳に通され、そこで夕食のもてなしを受けた。その食卓がいかに善美に、その品々がどれ程美味に、この哀れなる者の涙を誘ったことであろう。だが彼は、思う三分の一も、それを咽喉に通すことが出来なかった。だが腹は一杯であった。
「君、ゆっくりやって呉れ給えよ」
 そう促して、共に箸を手にしたのであったが、青年は至って物倦《ものう》げな様子で、その貴族的な顔に疲れの色を浮べ、ほとんど食わないと云っていい位少食だった。そこには希望のない人間の、あのなげやりな様が窺われた。彼は青年の様子から、普通人には見ることの出来ぬ、何か巾の広い、弱々しい親し
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