まりかえった大家《たいか》を見た。門前に一台の自動車が置かれていた。
右往左往の人々は、多くはこの家から出たり入ったりした。
宴会かな、とふと高張りの字に眼を止めた彼は、思わずおやッと足を止めた。自分の目的地がそこではないか。
念の為《た》め、行人をとらえてその使《つかい》すべき家がそれであることを確めると、彼は勇敢にも、その式幕を潜って表玄関に達した。
玄関にはテーブルを置き、其処には家令らしい老人が、紙硯を前に羽織袴で控えていた。彼は一度口の中で復習してから、教えられた通りを静かに述べた。
「恩田さんに会わして下さい。急用なんです、伴田からです」
彼は胸がドキドキした。がそれでよかった。
「恩田さんとな、暫時《しばらく》お待ちなさい」
機械のように老人が奥へ行くと、かなり間を置いてから、幼い女中が案内に出た。
「どうぞ、こちらへ」
で、彼が通されたのは奥まった洋室だった。応接室とは見えなかったが、簡素な、茶を呑むに格好な造りだった。
待つ間もなく、細面の上品な老人が這入って来た。やはり羽織袴で、酒の加減であろう、上機嫌に見えた。
「わしが恩田じゃが、あんたが伴田さん
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