させた危険人物だということも解って来た。けれども、ゴメズがカラタール氏に心服して仕えていたことは疑いのない事実だった。カラタール氏は、前にも言ったように、小兵な体躯《からだ》なので、護衛者としてゴメズを傭《やと》っていたのだ。
 が、そのカラタール氏が大急行で巴里《パリー》まで行こうとしたその目的は一体何であろう――それについては、巴里《パリー》方面からは何等の報道も来なかった。しかし、列車事件にからんだ凡ての事実は、この一事の中《うち》にこそ一切の秘密を集めているのではないか、この一事さえはっきりと解るならば………
 そこへ、あのマルセイユの方の諸新聞に一せいに掲げられたヘルバート・ドゥ・レルナークの告白とはなったのだ。ヘルバート、それはボンヴァローという一人の実業家の殺人犯人として死刑の宣告を受けて、現にマルセイユの監獄に繋がれている男なのだ。記者は次にその告白の全文を文字通りに訳出してみたいと思う――
『自分がこの告白の公表を敢てするのは、決して単なる誇慢の心からではない。もしそれが目的ならば、自分は自分の美談として世に残るべきほどの行為を十ほども数え挙げることが出来るものだから
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