させた危険人物だということも解って来た。けれども、ゴメズがカラタール氏に心服して仕えていたことは疑いのない事実だった。カラタール氏は、前にも言ったように、小兵な体躯《からだ》なので、護衛者としてゴメズを傭《やと》っていたのだ。
 が、そのカラタール氏が大急行で巴里《パリー》まで行こうとしたその目的は一体何であろう――それについては、巴里《パリー》方面からは何等の報道も来なかった。しかし、列車事件にからんだ凡ての事実は、この一事の中《うち》にこそ一切の秘密を集めているのではないか、この一事さえはっきりと解るならば………
 そこへ、あのマルセイユの方の諸新聞に一せいに掲げられたヘルバート・ドゥ・レルナークの告白とはなったのだ。ヘルバート、それはボンヴァローという一人の実業家の殺人犯人として死刑の宣告を受けて、現にマルセイユの監獄に繋がれている男なのだ。記者は次にその告白の全文を文字通りに訳出してみたいと思う――
『自分がこの告白の公表を敢てするのは、決して単なる誇慢の心からではない。もしそれが目的ならば、自分は自分の美談として世に残るべきほどの行為を十ほども数え挙げることが出来るものだから。そんなことではない、カラタール氏の運命についてここに語ることの出来る自分が、同時にまたあの事件を何人《なんびと》の利益のために、何人《なんびと》に依頼されて実行したかをあばくことの出来る人間であるということを、現在|巴里《パリー》に時めく若干《なにがし》かの紳士《ジェントルマン》等に思い知らせるためである。もしその紳士《ジェントルマン》等が余の死刑執行に対して猶予の方法を一日も速《すみや》かに講じようと欲しない限りは。閣下等よ、警戒したまえ、臍《ほぞ》を噛むとも間に合わぬような失態を演じないうちに!閣下等はこのヘルバート・ドゥ・レルナークをよく御存じのはずだ、そしてレルナークの行為《おこない》は語《ことば》のように速かであることをお忘れではないはずだ。今は一日を惜む。でないと、閣下等の万事は休するのだ!
『なるほど現在では、自分も口をつぐんで閣下等の尊名をあばくことをすまい。しかし、自分がかつて自分の抱え主等に対して忠実を誓ったように、彼等は現在の余に対して忠実であるだろうことを自分は信じたい。自分はかく希望する、そしてもし自分が、不幸にして彼等が遂に自分を裏切ったという確信を得るに
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