が現われて来た。提灯の投げる丸い光の圏内まで来たのを見ると、鼠色のスコッチの服を着て羅紗のハンチングを被った紳士風の男で、ゲートルをつけて、握りの玉になってる太いステッキを持っていたという。が、エディスが特に印象づけられたのは、顔色がひどく蒼ざめて、何んとなく挙動のそわそわしてることだった。年は三十をちょっとすぎたくらいだったという。
「一体ここはどこなんですか?」
 と男は訊ねた。
「仕方がないからこの荒野で野宿をしようと決心してるところへ、お前さんの灯が見えたんでホッとしたわけですよ」
「ここはキングス・パイランド調馬場のすぐ側《わき》です」
「おお、そうだったか! それはまあ何んという仕合せなことだろう! ふむ、毎晩一人ずつ厩舎で寝るんだと見えるな。それでいまお前さんが夕飯を持って行って来たんだな。ところでお前さん、新らしい着物が一重ね拵えられるお金の儲かる話があるんだが、嫌だなんて見栄を張るお前さんじゃありますまいね?」男はチョッキのポケットから折りたたんだ白い紙を取出して、「これを今晩の中《うち》に厩番《うまやばん》に手渡してくれれば、お前さんは飛切|上等《じょうら》の晴着が
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