白銀の失踪
SILVER BLAZE
コナンドイル Conan Doyle
三上於莵吉訳

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)行《ゆ》かなくちゃ

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)五十三|哩《まいる》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「」」は底本では欠落]
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「ワトソン君、僕は行《ゆ》かなきゃならないんだがね」
 ある朝、一緒に食事をしている時にホームズがいった。
「行くってどこへ?」
「ダートムアだ――キングス・パイランドだ」
 私は格別おどろきもしなかった。事実、私は、今全イングランドの噂の種になっているこの驚くべき事件に、ホームズが関係しないということをむしろ不思議にさえ思っていたのである。前の日、ホームズは終日眉根をよせた顔を首垂《うなだ》れて、強い黒煙草をパイプにつめかえつめかえ部屋の中を歩き廻ってばかりいて、私が何を話しかけても何を訊ねても石のように黙りこくっていた。あらゆる新聞の新らしい版が出るごとに、いちいち配達所から届けられたが、それすらちょっと眼を通すだけですぐに部屋の隅へ投げすて
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