しも傷がない。これで話の概略は終ったわけだが、何か君の気付いた点をいってもらえれば大変有難いのだが―」
ホームズが独特の明快さで語る一語一語を、私は異常な熱心さで傾聴した。その事実の大部分は既に私の承知していることであったが、どれが重大であるのか、またどれがどこへ関係を持つのかよくは分らなかった。
「ストレーカの傷は、頭をやられて痙攣的に藻掻いている中《うち》に、自分のナイフでやったんじゃないだろうか?」
私は一説をいってみた。
「有り得ないことではないね。あるいはそんなことかもしれぬ。そうだとすれば、シムソンに有利な材料が一つだけなくなるわけだ」
「それにしても、警察ではどんな見込を立てているか、今からだけれどどうも分りかねるね」
「警察の見込なんかどうせ我々の考えることとは大《おおい》に違うにきまってるんだよ。それはおそらくこうだと思う。フィッロイ・シムソンは厩番を薬で眠らせ、どうかして合鍵を手に入れて、誘拐し去る目的で馬をつれ出した。手綱の見えなくなっているのは、シムソンが使ったからだ。厩舎の戸を開け放しにしたままシムソンは荒地《あれち》の方へ馬をつれ出していったが、その途中
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