います。御迷惑でも御在宅のほど御願い申上げます。
[#ここで字下げ終わり]
 この手紙は私に深い興味を起こさせました。なぜなら、この顛癇病の研究にとって、一番苦しいことは患者が非常に少いと云うことだったからです。ですからその翌日、その手紙が指定して来た時間に、私はちゃんと診察室に坐って、その患者の来るのを待っていたことは申すまでもありません。
 その男は年をとった、痩せぎすな真面目そうな当り前な男で、どこにもロシアの貴族と云ったような感じは少しもありませんでした。が、それよりももっと私を驚かしたのは、その患者の附添いの男でした。それは背の高い若い男で、色の浅黒いしっかりした顔つきに、ヘラクレスのような丈夫そうな四肢と胸とを持っている、見るから堂々とした男でした、彼は患者を肩に倚りかからせながら這入って来て、静かに椅子に腰かけさせました。彼の表情を見ていただけでは、彼のどこに、そんな風に患者をいたわるやさしさがあるのだろうと思えるほど、彼は堂々としていたのです。
「ごめん下さい、先生」
 と、彼は流暢な英語で挨拶しました。
「これは私の父でございます。私にとってはこの父の健康は、何ものに
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