私が彼に、何かそのことについてきき出すと、彼は猛烈に反抗的になって来て、どうしても何か他の事に話をそらしてしまわないわけにはいかないのでした。が、――有難いことに、そんな風にしてしばらく日を経ているうちに、次第に彼の恐迫観念は消えていって、また普通の彼にかえったのです。ところが、事実はそれはツカの間の喜びで、また新しい出来事が彼を再び気の毒な虚脱の状態にもどらしてしまったのでした。そうして現在彼はその状態にいるのです。
 一体、その彼を再びそんな状態に追い込んだ出来事と云うのは、どんな出来事なのか? と申しますと、二日前のことでした。今あなたに読んでおきかせしますが、一通の、日附けもなければ、住所も書いてない手紙を受取ったのです。
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――こちらはただいまイギリスに滞在中のロシヤの貴族ですが、――
と、その手紙は書き出されていました。ペルシー・トレベリアン博士に御診察をぜひお願いしたいと思っております。実はこちらの患者は数年来、顛癇の発作に悩まされているのでございます。幸いトレベリアン博士は顛癇病の大家であるとききましたので、明日午後六時十五分頃にお伺い致したいと思
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