才はおありですか?」
 私はそのぶしつけな質問に、思わず笑わずにはいられませんでした。
「ええ、まあ、相応にはあるつもりです」
 私は答えた。
「では何か悪い習慣は?――お酒をお飲みになるなんてことはないんでしょう?」
「もちろん、飲みません」
「至極結構。そりア結構です。――しかしもう一つきかなくちゃならないことがあるんです。それなら、それだけの条件が揃っているのに、なぜ開業なさらないのですか?」
 私は肩をそびやかしました。
「よござんす、よござんす」
 彼は彼一流のせわしない口調で申しました。
「そんなことは分かりきっている話です。――あなたはあなたのポケットの中よりあなたの脳の中のほうがたくさん貯蓄があるんでしょう。え? そうじゃありませんか。――ところで、どうでしょう、私はあなたを、ブルック街に開業させてお上げしたいと思っているんですが……」
 私はびっくりして彼を見詰めました。
「いや、それはね、あなたのためではなく、私自身のためなんですよ」
 彼は声を大きくして云いました。
「私は何もかも洗いざらいかくすことなく卒直に申しますよ。そのほうが、あなたにもいいでしょうし、また
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