をひいたのは、若い婦人の顔の水彩画であった。
それは明らかに肖像画であって、舟乗りなどが特に心を惹《ひ》かれるような、想像的タイプの美人ではなかった。どんな画家でも、こんな性格と弱さとが妙に混淆《こんこう》したところのものを、その内面的から描き出すことは、なかなかむずかしいことであったろう。睫毛《まつげ》の垂れた不活発そうな物憂い眼と、そうして思案にも心配にも容易に動かされないような、広い平らな顔とは、綺麗に切れて浮き出した顎《あご》や、きっと引き締まった下唇と、強い対照をなしていた。肖像画の一方の下隅に、「エム・ビー、年十九」と書かれていた。わずか十九年の短い生涯に、彼女の顔に刻まれたような強い意志の力をあらわし得るとは、その時わたしにはほとんど信じられなかった。彼女は定めて非凡な婦人であったに相違なく、その容貌はわたしに非常な魅力をあたえた。私は単にちらりと見ただけであったが、もしわたしが製図家であるならば、この日記に彼女の容貌のあらゆる点を描き出すことがきっと出来るであろう。
彼女はわが船長の生涯において、いかなる役割りを演じたのであろうか。船長はこの絵をその寝床のはしにかけ
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