、霊感的なところがある」
私の友人はこう云いながら、その婦人の顔を静かに、燈火《あかり》の方に向けた。
「これはタイピストには見られないものだ。この御嬢さんは音楽家さ」
「その通りでございます、ホームズ先生、私は音楽を教えておりますの」
「それも田舎ででしょう、――あなたの御血色では、――」
「そうです。サーレーの外れの、ファーナムの近くでございます。」
「それはとても美しい近郊ですな。私どももあの地方にはたくさんの面白い聯想《れんそう》を持っていますよ。そらワトソン君、俺たちがあの文書偽造犯人の、アーチェ・スタンフォードを捕えたのは、あの近所だったよ。さてヴァイオレットさん、そのサーレーの外れのファーナムの近くに、どんなことがあったのですかお話し下さい」
その若い美しい娘さんは、とてもよく落ついて明瞭に次のような奇妙な物語りを話し出した。
「ホームズ先生、――父は亡くなりましたが、ジェームズ・スミスと申しまして、古い帝室劇場の、オーケストラのコンダクターをしておりました。そして私は母と二人生きのこったのでございますが、私たちには、身寄りの者と云うものも無く、ただラルフ・スミスと云
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