いような微笑を漏らしながら、とにかく一応その話をきこうと云うことで、その美しい訪客を椅子に招じたのであった。
「とにかくお嬢さん、あなたはそんなに自転車に熱中しては、身体のためによくありませんよ」
ホームズは、例の鋭い視線を、その美しい訪客に一渡り投げかけた後に云った。
彼の女はハッと驚いて、自分の脚の方を見下した。私もその方を見ると、靴の底の横の方が、ベタルのために軽くささくれ立っていた。
「そうです、私は御覧の通り自転車に乗りますが、実は私が今夜お訪ねしましたのも、これに関連があるのでございますが、――」
私の友人はその若い婦人の、手袋を取っていた手をとって、あたかも科学者が標本でも観察する時のように、冷静に注意深く眺めた。
「いや、失礼はお許し下さい。どうもこれは私の商売柄なんで仕方がないのです」
彼はその手を放しながら云った。
「私は今もう少しであなたをタイプライターを打ってる人と間違えるところでしたが、もちろんあなたは、音楽家ですな。で、ワトソン君指先が箆《へら》のように平べったくなっているだろう、――これがこの二つの職業には、共通の特徴なんだが、しかしこちらは表情に
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