》に例の男は、ゆるやかに踏みながら、また自転車で引き返して来たのであった。それからその者は廃院の門から入って、自転車から降りた。ちょっとの間その者は立っていたが、それはネクタイを結び直しているのらしかった。それからまた自転車に乗って、廃院の方に進んで行った。私は荒蕪地を走り抜けて、木の間を通してそれを覗いた。はるか遠くに私は、チュードル[#「チュードル」は底本では「チスードル」]風の煙突の屹立している、古い灰色の建物をチラチラと見たが、しかしその自転車乗りの姿は、濃い灌木の蔭になってしまって、もう見ることは出来なかった。
けれども私は、とてもいい朝の仕事を、一つ仕終ったと思って、意気揚々として、ファーナムの停車場に引き返した。この地方の建物の差配人は、チューリントン廃院のことについては、何も語ってはくれず、私にポール遊園地の、よく知られている、組合管理所を教えてくれた。それで私は帰り道に、序《ついで》に立ち寄ったのであったが、そこの管理人は、非常に鄭重に応対してくれた。そのチューリントン廃院と云うのは、この夏はもう契約ずみであった。私はもうおそかった。一ヶ月ばかり前に、貸付の契約は出
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