とその美しいフォームを立ててゆく若い美しい女性、一方はハンドルの上に低く身体をこごめて、これを追っかけてゆく、――何かしら意味のありそうな、好奇心をそそらせる一場の活劇場の光景であった。彼の女は途中で振り返って、その男を見ながら、速力をゆるめた。そうするとその男もやはり速力をゆるめた。彼の女はピタリと止まった。その男もすぐに止まって、二百|碼《ヤード》ばかりの間隔を保った。その次の彼の女の行動は、全く思いも設けぬ敏《すば》しっこさであった。彼の女はクルリっと自転車をまわすと、一目散にその男の方に突進して行った。しかしこれを見たその男もまた、彼の女以上に駿敏であった。やはり自転車を返して、死に物狂いの全速力で遁げ出した。今は彼の女もまた引き返した。そして意気揚々と、自転車の上に反り返って、もう唖の従者には、一瞥も与えぬと云うように、昂然としてまた道を行くのであった。そうするとまたその男も引き返して、やはり二百|碼《ヤード》ばかりの間隔で、二人の姿はその先の曲り角から、私には見えなくなってしまった。
 それからなお私は、その隠れ場にひそんでいたが、それはとてもいいことであった。その中《うち
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