とは、種々の点から私は気がついた。建物は道路から見えたが、その周囲の様子から考えると、だいぶ荒廃している感じであった。
 荒蕪地《こうぶち》の方は、ハリエニシダの花が満開中で、四月の太陽を受けて、黄金色に燦爛《さんらん》としていた。私はその一つの茂みのかげの、道路の両端と、廃院の門とがよく見える位置に身をひそめた。私が道路から横に入った時は、道路には何も見えなかったが、今は私が来た方向とは反対の方から、一人の自転車に乗った者の姿が現われた。その者は灰黒色の着物を着て、黒い髭を蓄えているように思われたが、チァーリントンの区域内に入って来ると、その者は自転車から降りて、生籬の間隙から忍び込んで、その影は見えなくなってしまった。
 それから十五分ばかり経ったら、また別の自転車乗りの姿が現われた。今度のは例の娘さんが、停車場から来たのであった。チァーリントンの生籬のところまで来ると、彼の女は周囲を振返って見ているのが見えた。それからちょっとおくれて、生籬の間から、先の者が忍び出て、自転車に乗って彼の女を追っかけ始めたのであった。一望開豁《いちぼうかいかつ》な荒野の中に、一方は自転車の上に、すっ
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