はいつも、何にも云いませんでした。彼はたしかに立派な紳士ですがしかし、女の心と云うものは、いつもよく解っているものでございます」
「ははあ!」
 ホームズは真面目な表情をした。
「生計の方はどうして立てているのですか?」
「あの人はお金持ちですもの」
「馬車や馬は持っていませんか?」
「ええ、しかし何しろとてもいい生活でございますよ。あの方は毎週二三度はロンドンに出ますが、何でも南アフリカの採金地の株に、非常に興味を持っているようでございますわ」
「それではスミスさん、いずれこの上にも変ったことがありましたら、また入らして下さい。私は実は今は非常に忙《せ》わしいのですが、しかしいずれその中《うち》にあなたの御依頼のことにも、研究を進めてみましょう。しかしこの間に、私に断りなしに、事を進めてはいけませんぞ。ではさようなら、――あなたから吉報が来るようにいのっていますよ」
「あんな美しい娘さんを追いまわすと云うことは、あまりに自然の命ずるままのいたずらだ」
 ホームズは彼の静思の時の、パイプを取り上げながら云った。
「寂しい田舎道までを、自転車などに乗って歩かなければいいものをね。まあいず
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