心が出来ませんので、――」
 ホームズはしばらくの間はただじっと黙していた。
「あなたの御婚約の方は、どちらに居らっしゃるのですか?」
 彼はようやく口を開いた。
「コヴェントリーの、ミドランド電気会社に居りますの」
「不意にあなたを訪問して来るようなことは、ありませんでしたか?」
「あら、ホームズ先生、それでは私がまるであの人を知らないようではございませんの?」
「その他にまだあなたを好きな人がありましたか?」
「シイリールを知る前に、少しございましたわ」
「その後には?」
「その後でしたら、あの怖ろしいウードレーでございます。まあもしあの男もそうだとお思いになるならでございますが、――」
「その他にはありませんか、――その他には?」
 この美しい若い依頼者は、ちょっと困った形であった。
「いや、それではあの人はどんな人ですかね?」
 ホームズは訊ねた。
「ああ、――でもこれはただ私だけの想像なんでございますけれど、私にはあの主人のカラザースさんは、とても興味を持っていると思われることが時々ございましたわ。私たちは、全く開けっ放しで、夜は私はあの方の伴奏を弾きました。もちろんしかし彼
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