来てしまっていた。ウィリアムソンと云うのが、その借り主だと云うことであったが、それはなかなか尊敬するに足る、もう年長の老紳士だと云うのであった。鄭重な管理人にもう、何も云うことはないので、ひどく困った様子をしていたが、たしかにこのお客様の要件と云うのは、その管理者にとって、口にしがたいことには相違ないことであった。
その夜私は、これだけの長い報告を、シャーロック・ホームズ君のところに齎《もたら》した。私は大変価値ある、そして多少の賞讃さえも、期待したことであったが、しかしそうした言葉は彼の口からは出て来なかった。それどころか、彼が私のやって来たこと、気がつかずに来たことに対する批評の時は、彼の峻厳な顔は、いよいよ嶮《けわ》しく変ってしまった。
「いや、ワトソン君、――君はまずその、隠れ場所が第一に間違ってるよ」
彼は云った。
「そりゃ君は、生籬の蔭にかくれるべきだった。そうすればその目的の人物を間近くで見ることが出来たわけじゃないかね。君も何百|碼《ヤード》と云うものを離れて見たので、あの娘さんのスミス嬢以下の報告っきり出来ないじゃないか、あの女は自分が知らない者だろうと云っていたが、しかし僕の見るところでは、あの女が知っている者に相違ないと思うのだ。だってもしそうでないとしたら、何もあの女が接近するのを、そんなに一生懸命で遁げる必要はないと思うからね。[#「。」は底本では欠落]君はその者がハンドルの上に身をこごめたと云うが、それもすなわち、顔をかくしたのだろう。君は全く徹頭徹尾間違ったよ。その者は家に帰り、君はその者の正体をつき止めようとして、ロンドンの、貸家の差配人のところに来る、――」
「じゃ僕は、どうすればよかったのだね?」
私はちょっと逆上《のぼ》せ気味になって叫んだ。
「そりゃ近所の居酒屋にとびこむのさ。そこはその地方の噂《ゴシップ》の中心だ。そこに集《あつま》ってる者共は君に主人から食器洗いの者までの名前を教えてくれるだろう。そうウィリアムソンと云ったね! しかしこの名前は、僕にも何の心当りもないな。しかしそれがもう相当の年配とすれば、あの活溌な若い自転車嬢さんに追跡されて、霞をくらって遁げた、素ばしっこい男なはずはないね。さてこうなってみると、君の御苦労な遠征で得たものは何んだろうね? なるほどあの娘さんの云ったことは逐一事実であると云うことは
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